脂質異常症とは 健診会 東京メディカルクリニック

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脂質異常症とは

戦後、わが国においても食生活あるいは日常の運動量を中心とした生活様式の変遷に伴って、肥満者が増え、血糖値とともに血清脂質値のレベルが上昇傾向を示していることは、国民健康栄養調査や循環器疾患基礎調査による報告をみても明らかです。
動脈硬化性疾患、特に心筋梗塞・狭心症等の冠動脈疾患を含む心疾患や、脳梗塞・脳出血等の脳血管障害による死亡は、日本人の死因でがんに次ぎ、約1/4を占めています。動脈硬化発症の代表的な危険因子のひとつに、脂質異常症があります。脂質異常症は遺伝因子に加え、望ましくない生活習慣(過食、多飲酒、運動不足、喫煙等)の蓄積により発症します。
本稿では脂質異常症の発生を生活習慣、加齢、性別との関係から考察し、予防と管理の重要性について解説していきます。

1.脂質異常症の疫学

1)日米の平均総コレステロール値の推移

図1 日米の平均総コレステロール値の推移 1)

日米の平均総コレステロール値の推移 1)

米国(男女)1960年:220mg/dl → 2000年:200mg/dl
日本(男女)1960年:180mg/dl → 2000年:200mg/dl
(米国国民健康栄養調査(NHANES)、第3次/第4次厚生労働省循環器疾患基礎調査(1980/1990)、第5次厚生労働省循環器疾患基礎調査(2000)をもとに作成)

虚血性心疾患が国民病である米国では、コレステロール低下をもたらす食事療法の徹底化で、年々コレステロールレベルは低下していますが、徐々に生活が欧米化しているわが国では、逆にコレステロールレベルが上昇し、1990年には両国でほぼ同等の値になっています(図1)。この原因として食事スタイルの欧米化運動不足が指摘でき、肥満者の増加にも繋がっています。

2)脂質異常症の有病者数

図2 血清総コレステロールが 240 mg/dL 以上の者の割合の年次推移(20 歳以上)

図2 血清総コレステロールが 240 mg/dL 以上の者の割合の年次推移(20 歳以上)

令和元年国民健康・栄養調査2)より

現在のわが国における脂質異常症有病者数の状況をみてみましょう。令和元(2019)年、血清総コレステロール値が 240mg/dL 以上の者の割合は、男性 12.9%、女性 22.4%でした。平成21(2009)年~令和元(2019)年の期間では、男性では有意な増減はみられませんが、女性では有意に増加しています。

3)脂質異常症の性別・年代別有病割合

血清脂質値の加齢に伴う変化は男女で異なります。平成10(1998)~平成11(1999)年の1年間、島根県全域で健康診断を受診した約15,000人を母集団とし、血清脂質4項目について性別・加齢による影響を調べた研究3)があります。その結果と照らし合わせながら血清脂質値の性別と加齢に伴う変化についてみてみましょう。

図3 総コレステロールの性別加齢変化 図4 LDLコレステロールの性別加齢変化

総コレステロール、LDLコレステロールは40歳代までは男性が高値ですが、50歳代以降は閉経の影響で女性のほうが高くなります(図3、図4)。

図5 HDLコレステロールの性別加齢変化 図6 中性脂肪の性別加齢変化

HDLコレステロールはほぼ全年齢層で女性が男性よりも高値を示しました(図5)。中性脂肪は男女ともに加齢とともに上昇し、男性の方が高値ですが、50歳代以降男性との差が縮小します(図6)。
このように脂質異常症は、脂質の種類により性差や年齢差がみられます。とくに女性では閉経によりエストロゲンが減少する影響が大きいと考えられます。男性では、肥満や加齢の影響が考えられます。

4)心血管系疾患発症率の性別・年代別発症率

図5 HDLコレステロールの性別加齢変化 図6 中性脂肪の性別加齢変化

図7A:年齢、性別の心血管系疾患発症率(Framingham Study)
図7B:日本における心疾患による死亡率の男女比(国民衛生の動向2002年:厚生統計協会)

LDLコレステロール値等が更年期以後に上昇傾向にあることと相関するように、女性における虚血性心疾患や脳血管障害などの動脈硬化性疾患の発症頻度は、更年期以後に増加傾向を示し、加齢とともに男性の発症頻度と同レベルまで達します(図7A)。
エストロゲンの抗動脈硬化作用には、脂質代謝の改善などを介して血管に対する間接的作用(HMG-CoA 還元酵素活性の抑制など)と、血管に対する直接的作用(NO産生促進など)が知られています4)。しかし閉経後は、エストロゲン濃度が下がるため、このようなコレステロール代謝のサポートが減ることとなり、高LDLコレステロール血症などの脂質異常症が増えて、心筋梗塞発症率が増加します。しかしその頻度は男性よりは低い傾向にあります(図7B)。

5)脂質異常症の予防と管理、治療の重要性

脂質異常症は通常は無症状のため、予防や治療に積極的に関わっていこうと考える方が少ないのが実情です。また、現状では根本的な治療法がないため、治療は長期的に継続する必要もあり、受診を躊躇する原因になっているかもしれません。しかし、脂質異常症は動脈硬化性疾患と深く関わっていることから、予防と管理、そして十分な治療の必要があります。
脂質異常症の予防と管理、治療の重要性を理解するために、動脈硬化学会が定めている「脂質異常症スクリーニングのための診断基準」(表1)の基準値がどのような経緯で設定されたのかをみていきましょう。

① LDLコレステロール値と冠動脈疾患発症の関連性

高LDLコレステロール血症と狭心症や心筋梗塞などの動脈硬化性疾患との関係は欧米を中心に証明されてきましたが、最近はわが国でも多くのコホート研究が行われ、その関連は十分に証明されています。

図8 LDLコレステロール値と冠動脈イベント発症率

図8 LDLコレステロール値と冠動脈イベント発症率

(循環器内科.Com6)より引用)

LDLコレステロール値と冠動脈イベントの発症率について、2004年の「Journal of the American College of Cardiology」にまとめた図が有名です。上図から、LDLコレステロール値冠動脈イベント発症率はほぼ直線的に比例関係にあることがわかります。つまり、LDLコレステロールの上昇は、将来の冠動脈疾患の発症や死亡を予測すると考えられています。
CIRCS(日本を代表とする循環器疾患の疫学研究)においては、日本人でもLDLコレステロール140mg/dl以上で冠動脈疾患の発症リスクが2倍以上になることが明らかになりました。よって、動脈硬化性疾患予防ガイドラインでは、日本人のスクリーニング基準値をLDLコレステロール140mg/dl以上とし、さらに他の危険因子の重複の影響を慎重に判断すべき境界域としてLDL120~139mg/dlが設定されました。
危険因子(表2)の重複は動脈硬化の発症率・死亡率を上昇させることも分かっています。

表2 動脈硬化の危険因子5)

表2 動脈硬化の危険因子5)

② HDLコレステロール値と循環器疾患死亡リスクの関連性

血清HDL-コレステロールと循環器疾患死亡リスクの関連を検討したNIPPON DATA90の研究結果(30歳以上の男女8000人を10年追跡した研究)では、男女とも血清HDL-コレステロール値40~59mg/dLの死亡リスクを1とした時、HDLコレステロール35mg/dL未満で約1.5倍高く血清HDL-コレステロールが上昇するほど循環器死亡リスクが低下する傾向を示しました(図9)。
その他、いくつかの大規模研究でもHDLコレステロールの低下は、将来の冠動脈疾患や脳梗塞の発症や死亡を予測することが示され、40mg/dl未満が低HDLコレステロール血症のスクリーニング基準とされました。

図9 血清HDLコレステロール値と循環器疾患死亡との関連 (NIPPON DATA90、10年追跡、男女計)7)

図9 血清HDLコレステロール値と循環器疾患死亡との関連 (NIPPON DATA90、10年追跡、男女計)7)

③中性脂肪値と冠動脈疾患発症の関連性

図10 非空腹時(食後)中性脂肪値と虚血性心疾患8)

図10 非空腹時(食後)中性脂肪値と虚血性心疾患8)

大阪大学の研究チームは日本人約1万人の健康診断で非空腹時中性脂肪値を測定し、平均15.5年の前向き研究を行ったところ、非空腹時の中性脂肪値上昇は、コレステロール値と独立して、突然死・心筋梗塞・狭心症を増加させることを見出しました(図10)。
その他にも空腹時、非空腹時にかかわらず中性脂肪値の上昇は、将来の冠動脈疾患や脳梗塞の発症や死亡を予測するという多くの研究報告があります5)。以上のことから、中性脂肪値は150mg/dl以上が高中性脂肪血症のスクリーニング基準とされました。

まとめ

LDLコレステロールおよび中性脂肪が高いほど、またHDLコレステロールが低いほど冠動脈疾患の発症頻度が高いこと、脂質異常症は動脈硬化性疾患と深く関わっていることをご理解頂けましたでしょうか。
特に表2「動脈硬化の危険因子」を複数お持ちの場合は、基準値より少し高かっただけとそのままにせず、かかりつけ医に相談して、治療を始めていきましょう。

脂質異常症の診断・治療についてはこちらもご覧ください

参考文献

1)日本病態栄養学会、病態栄養ガイドブック、メディカルレビュー社、2013

2)厚生労働省、令和元年国民健康・栄養調査報告
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/r1-houkoku_00002.html

3)江角幸夫ほか、血清脂質(T-C,HDL-C,TG,LDL-C)の加齢変動と高齢者用基準範囲設定の試み、日農医誌49巻1号12~20頁2000.5
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrm1952/49/1/49_1_12/_pdf

4)高橋一広 山形大学医学部産科婦人科学講座、エストロゲンと血管、日本生殖内分泌学会雑誌(2013)18 : 11-15
http://jsre.umin.jp/13_18kan/7-review2.pdf

5)日本動脈硬化学会、動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2017年版

6)循環器内科.Com、脂質異常症
https://xn--v6qx2jexjd1vw1f.com/dl/

7)NIPPON DATA、血清HDLコレステロール値と循環器疾患死亡との関連(NIPPON DATA90、10年追跡、男女計)
https://shiga-publichealth.jp/nippon-data/material/2-4/

8)増田大作、食後高脂血症の意義と 日常診療への活用:日内会誌 106:702~710、2017
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/106/4/106_702/_pdf

9)鈴木庄亮ほか、シンプル衛生公衆衛生学、南江堂、2015

10)佐田みずき、岡村智教、わが国における血清コレステロール値および 脂質異常症の時代的推移、2018
http://www.jacd.info/library/jjcdp/review/53-3_02_sata.pdf

11)厚生労働省、禁煙支援マニュアル(第二版)増補改訂版
https://www.mhlw.go.jp/topics/tobacco/kin-en-sien/manual2/addition.html

12) Craig WY, Palomaki GE, Haddow JE: Cigarette smoking and serum lipid and lipoprotein concentrations: an analysis of published data. BMJ 1989; 298: 784-788.

13)菊地恵観子、喫煙習慣と体重および HDL コレステロールの関連、平成28年

14)厚生労働省「2019年国民生活基礎調査の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa19/dl/04.pdf

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