大腸がんコラム Vol.2「下痢と便秘」 健診会 東京メディカルクリニック

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大腸がんコラム Vol.2「下痢と便秘」

当院で行った337名を対象に行った大腸がんに関するアンケートでは、約半数の方が「症状はないけどがんが心配」と回答し、6人に1人が「下痢や便秘で不安を感じたことがある」と回答しています。
排便のメカニズムには多くの要因が複雑に絡み合っており、未だ解明されていない部分もあります。
便秘も下痢も多くの方が経験したことがあると思いますが、その定義まで理解している方は多くないのではないでしょうか。
特に便秘については、排便習慣に個人差も大きく、その個人によって「便秘」の意味する内容も様々です。
長く便秘や下痢、残便感や下腹部痛などの症状が続き何か病気ではないかと不安を感じたら、どうしたらいいでしょうか?
今回は便秘や下痢への理解が深まり、次の行動に繋がるよう

  • 下痢・便秘の原因と注意点
  • 下痢・便秘の食事療法と生活習慣の改善ポイント
  • 下痢・便秘の症状が続いたときどうすればいいか

などについて解説します。
ぜひ最後まで読んで理解を深めてください。

下痢・便秘の原因と注意点

1)下痢

下痢とは、日に3回以上(一般に普通とされるよりも多い回数)軟便か水っぽい便が続く状態のことをいいます。1)  口から摂取した食物は、消化管という口腔から肛門まで9mほどもある管の中を進む間に消化・吸収されます。その中で消化出来なかった食物が大腸に入り、水分の吸収が行われ、最後に残った残渣が腸の動き(蠕動運動)によって肛門から便として排出されます。

図 消化器系の全体像

図 消化器系の全体像

通常腸管内には、口から摂取された水分と唾液や腸液などの消化液が合わせて1日あたり約9 L入ってきます。その90%以上は腸管で再吸収され、全体の2%程度の水分が便の中に混ざり排泄されます。この腸内循環のバランスが崩れ、便の中の水分が増加すると下痢が発生します。
腸内循環のバランスが崩れる原因と、発症してからの期間によって、下痢はいくつかの種類に分類されます。

発生の原因による分類

①浸透圧性下痢 【原因】乳糖不耐症の方の牛乳摂取、人工甘味料の過剰摂取、アルコール多飲など
腸で水分がきちんと吸収されないまま排便されることで起こる下痢のこと。

②分泌性下痢 【原因】腸に入った細菌による毒素の影響、ホルモンの影響など
腸液などの分泌が過剰になって便の中の水分が多くなることで起こる下痢のこと。

③蠕動運動性下痢  【原因】過敏性腸症候群、甲状腺機能亢進症など
腸の運動が活発すぎて食べ物が短い時間で腸を通過してしまい、水分の吸収が不十分になることで起こる下痢のこと。

④滲出性下痢 【原因】ウィルス性腸炎、細菌性腸炎など
腸の炎症の起きたところから血液成分や細胞内の液体などが滲み出て、便の水分量が増えることで起こる下痢のこと。

発症してからの期間による分類

急性下痢 【原因】ウィルスや細菌の感染、薬剤性の下痢、生活習慣の乱れなど
発症からおおむね1週間以内に症状が落ち着く下痢です。ほとんどの場合、ウィルスや細菌の感染による感染症が原因ですが、それ以外では薬剤性の下痢、アルコール等刺激物の取り過ぎ、暴飲暴食などがあります。

②慢性下痢 【原因】過敏性腸症候群※、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病など)、大腸がんなど
発症から3週間以上症状が続く下痢です。原因に応じて下痢以外の症状(発熱や腹痛、血便や体重減少など)を伴うことも多くあります。

※過敏性腸症候群(IBS)とは

腹痛と便通異常(下痢、便秘)あるいはそのいずれかの症状が、交互に、もしくは続いてあらわれる場合、過敏性腸症候群が疑われます。基本的な検査や内視鏡検査などで腸に異常がみつからないにもかかわらず下痢、便秘などの症状が続く病気です。発症年齢は40歳未満が多く、年齢とともに低下する傾向があります。過敏性腸症候群の原因にはストレス、腸内細菌、神経伝達物質、心理的異常(うつと不安)、遺伝などが関与しています。

2)便秘

一般人10,000 名(年齢 20~69 歳)を対象として行ったアンケート調査では、51.5% の方が便秘を自覚している一方で、便秘を理由に医療機関を受診する方は少なく、市販薬で対処している方が多い(薬局購入67.5%、医師処方37.2%)という結果がでています。2)
慢性便秘症(いわゆる便秘)とは、本来身体の外に出すべき便を十分量かつ快適に排出できない状態のことをいいます。
食事をして排便されるまでの時間は体調などでも大きく変わりますが、排便が2~3日に1回であってもスムーズで、膨満感や残便感などがなく快適に排出できているのであれば、それは便秘とは言いません。逆に毎日排便があっても、強くいきんでも少量しか便が出ず、残便感や排便時に苦痛がある場合は便秘とされます。
便秘は原因から器質性便秘と機能性便秘に、症状から排便回数減少型と排便困難型に、病態から大腸通過正常型と大腸通過遅延型と便排出障害に分類されます。(表1) 3)
排便回数の少ない便秘に対する食事・生活習慣改善や下剤療法のみが強調されがちですが、溜まった便を出す動きが困難なタイプも存在し、その原因によってはリハビリ療法や手術が有効な場合もあります。4)5)

 表 慢性便秘(症)の分類 (文献 3)より引用し作成)

表 慢性便秘(症)の分類 (文献 3)より引用し作成)

便秘は長く続くと大腸の中で水分の吸収がすすみ便が硬くなっていきます。便が硬く太くなりすぎると物理的に肛門を通過できなくなり、処置が必要になることや、硬い便の隙間から下痢状の便が漏れてくることもあります。

下痢、便秘 の食事療法と生活習慣の改善ポイント

基本的には生活習慣の改善やバランスのよい食事をこころがけることが重要です。

1)下痢

経口補水療法

細菌感染症やそのほかの感染症に対しては、適切な薬物療法と補水療法が基本です。感染性腸炎もしくはかぜ症候群で下痢による脱水が想定される場合は、経口補水液を500〜1000ml/日程度を摂取してから、様子をみて、かかりつけ医にご相談ください。

食事療法

消化のよい食事(味噌汁、野菜スープなど)をとる
刺激の強いもの(アルコール、香辛料など)、脂質の多い食品、冷たいものを控える

2)便秘

食事療法と生活習慣改善ポイント

バランスの良い食事と規則正しい生活・睡眠
トイレを我慢しない。朝食後など便意がなくとも決まった時間帯にトイレに行く習慣を身につける
起き抜けにコップ1杯の冷たい水、朝食を摂取する
食物繊維摂取量の正常化(18~20g/日が目標)
ビフィズス菌、乳酸菌を含んだ飲料やヨーグルトなどをとる
良質な油脂を適度に摂る
適度な運動を取り入れる

<18~64歳> 
身体活動量の目安
毎日の労働・家事・通勤・通学で
身体活動60分以上

週に1-2回、30分以上の汗をかく程度のウォーキングやラジオ体操などの運動
<65歳以上> 
身体活動量の目安
毎日、歩行や掃除など合計40分以上の身体活動

表 適度な運動の目安

図 お腹の「の」の字マッサージ

図 お腹の「の」の字マッサージ

1日15分、週5回 大腸の流れに沿ってマッサージを行う

症状が続く場合は消化器内科にかかり大腸の精密検査を受けましょう

下痢や便秘が治らずに長く続いたり、繰り返し起こる場合には炎症や大腸がんなどの病気が原因である可能性があります。
「自分は便秘体質だから」「下痢体質だから」「最近疲れているから」と思い込む前に一度かかりつけ医へご相談ください。

症状を聞いたうえで、病気が原因で引き起こされているわけではなさそうであれば、症状を抑えられるような生活習慣の改善を行っていきます。

問診などの結果、大腸の病気を疑われるような症状があった場合には大腸内視鏡検査や大腸CT検査などの精密検査が提案されます。

大腸内視鏡検査は、大腸がんの95%以上を見つけることが可能で、大腸がんの前病変である大腸ポリープなども高い精度で発見できます。しかし検査のためには大量の下剤を飲む必要があったり、検査のために拘束される時間が長いといったデメリットもあることから、検査へのマイナスなイメージを抱き、受診を控えてしまう方も一定数いると言われています。

当院では前処置負担や検査の拘束時間も短く(検査は10分程度)、大腸内視鏡検査と同等の検査精度で検査を行える大腸CT検査をお勧めしています。大腸にカメラを入れることなく検査を行えるため、過去に大腸内視鏡検査でうまくカメラが入らなかった方や、腹部手術後の癒着がある方なども、大腸の奥まで観察が可能です。

定期的に大腸の検査がしたい方、特に今症状はないけれど将来大腸がんになるのが不安という方も、精神的・身体的にも負担の少ない大腸CT検査を是非ご検討ください。

大腸CT検査について詳しく知りたい方は

1) WHO 下痢症について(ファクトシート)2 May 2017
2) 佐々木誠人、Internet survey による日本の一般生活者の便秘に関する実態調査;REACTION-J(Research for Actual Situation of Constipationin the Japanese)、日消誌 2019;116:913―926
3) 日本消化器病学会関連研究会慢性便秘の診断・治療研究会:慢性便秘症ガイドライン2017
4) 味村俊樹 京消会報vol.36 慢性便秘症の分類・診断・治療
5) 味村俊樹 臨床消化器内科.(2018)vol.33 定義・分類・診断基準,特集,慢性便秘-新たな分類と病態・診断・治療

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